広島県における大規模地震のリスクと備え

こんにちは。この記事では、私たちの住む広島県で起こりうる大規模な地震のリスクと、その備えについて解説します。地震は、いつどこで起こるかわからない自然災害ですが、正しい知識を持ち、日頃から備えておくことで被害を減らすことができます。本記事では、広島県の地震活動の特徴、特に警戒されている南海トラフ巨大地震の影響、地盤と揺れの関係、そして具体的な防災対策や地震に関する学びについて、順を追って分かりやすく説明します。この記事を通して、皆さんの防災意識を高める一助となれば幸いです。

第1章 広島県の地震活動の特徴

1.1 日本列島とプレート

日本付近のプレートと地震発生のメカニズムを示す図
日本付近のプレートと地震発生のしくみ (出典例: 気象庁)

出典: 気象庁 地震の発生するしくみ

日本列島は、複数の「プレート」と呼ばれる巨大な岩盤が複雑にぶつかり合う場所に位置しています。地球の表面を覆うこれらのプレートは常に動いており、その動きによって地震が発生します。

広島県はユーラシアプレート上に位置し、県の南側ではフィリピン海プレートがユーラシアプレートの下に沈み込んでいます。この沈み込みは、**安芸灘(あきなだ)などで発生する地震の主な原因**となっています。

1.2 広島県周辺の地震リスク

広島県周辺には多くの「活断層」が存在します。活断層とは、過去に繰り返し活動し、将来も活動する可能性のある断層のことです。特に県西部には「**岩国ー五日市(いわくにーいつかいち)断層帯**」と呼ばれる、全長約78kmにも及ぶ大規模な活断層帯があり、ここで地震が発生した場合、最大震度6強の強い揺れが想定されています。このような活断層が引き起こす地震は「直下型地震」と呼ばれ、震源が浅いため、局所的に激しい揺れをもたらす特徴があります。2024年1月に発生した能登半島地震も、活断層による直下型地震と考えられており、改めてその危険性が認識されました。

広島県周辺の主要な活断層とプレート境界の模式図
広島県周辺の主要な活断層とプレート境界(模式図)RCC

また、広島県は南海トラフからやや離れているものの、「南海トラフ巨大地震」のような海溝型地震が発生した場合、広い範囲で影響を受ける可能性があります。南海トラフ巨大地震が発生した場合、広島県内の広い範囲で震度5弱以上の揺れが予想されており、沿岸部では津波のリスクも考慮する必要があります(詳細は第2章)。

加えて、広島平野などに見られる軟弱な地盤は、地震の揺れを増幅させる要因となるため注意が必要です(詳細は第3章)。

参考: 地震調査研究推進本部 広島県の地震活動の特徴

参考: 広島県 南海トラフ地震以外の地震震度想定(PDF)

1.3 過去の地震事例:2001年芸予地震

近年、広島県に大きな被害をもたらした地震として、2001年3月24日に発生した「芸予(げいよ)地震」があります。

この地震では、広島市中心部でも震度5強を観測し、建物の壁の崩落や窓ガラスの破損などの被害が出ました。芸予地震は、活断層ではなく、沈み込むフィリピン海プレート内部で発生した地震と考えられています。

出典: 土砂災害ポータルひろしま 平成13年(2001年)芸予地震

関連動画: 2001年3月に発生した芸予地震(HOME広島ニュース)

【第1章のまとめ】 広島県では、①活断層による直下型地震②フィリピン海プレートの沈み込みに伴う地震(芸予地震など)、③南海トラフ巨大地震のような海溝型地震の影響④軟弱地盤による揺れの増幅といった、様々なタイプの地震リスクが存在します。過去の地震経験からも、日頃からの備えが重要です。

第2章 南海トラフ巨大地震の影響

2.1 南海トラフ巨大地震とは

南海トラフとその周辺のプレート境界を示す図
南海トラフとその周辺のプレート境界 気象庁

「南海トラフ巨大地震」とは、静岡県の駿河湾から九州東方沖にかけて延びるプレート境界「南海トラフ」で発生すると想定されている、マグニチュード8~9クラスの巨大地震のことです。

南海トラフでは、フィリピン海プレートがユーラシアプレートの下に年間数cmの速さで沈み込んでおり、その境界にひずみが蓄積しています。このひずみが限界に達すると、プレートが急激に跳ね上がって巨大地震が発生します。南海トラフ地震は、歴史的に約90年~150年の間隔で繰り返し発生してきました。

参考: 気象庁 南海トラフ地震について

2.2 発生確率と想定される被害

南海トラフで最後に大規模な地震が発生したのは1944年の昭和東南海地震と1946年の昭和南海地震です。地震調査研究推進本部は、南海トラフにおけるマグニチュード8~9クラスの地震が、今後30年以内に発生する確率を「70%~80%」令和6年1月1日現在)と評価しており、非常に切迫した状況にあると考えられています。

出典: 地震調査研究推進本部 南海トラフで発生する地震

もし最大クラスの南海トラフ巨大地震が発生した場合、国の中央防災会議は、全国で死者約32万人、建物の全壊・焼失約238万棟という甚大な被害を想定しています(これは現時点で想定しうる最大クラスの被害であり、対策によって被害を軽減することは可能です)。

出典: 内閣府防災情報 南海トラフ巨大地震対策

気象庁 「南海トラフ地震に関連する情報」について(PDF)

2.3 広島県への影響想定

南海トラフ巨大地震が発生した場合、広島県には以下のような影響が想定されています。

南海トラフ巨大地震による広島県の想定震度分布図
図4: 南海トラフ巨大地震による広島県の想定震度分布

出典: 広島県 南海トラフ巨大地震等による広島県地震被害想定調査結果について

【防災プロジェクト】南海トラフ地震による瀬戸内海の津波リスクを考える広テレ
【広島にも高さ3メートル以上の津波が…南区宇品地区が要注意 南海トラフ地震で専門家が警告TSS
広島県の津波被害は増大する想定 南海トラフ地震の被害想定見直し
   南海トラフ巨大地震 広島県の死者は2200人で前回想定の2.8倍に 国が13年ぶり新たな被害想定を公表RCC
   死者数は最大で約29万8000人 南海トラフ巨大地震で新想定 最悪ケースで生活どうなる?【Nスタ解説】|TBS NEWS DIG
表1: 南海トラフ巨大地震における広島県沿岸部の想定津波高と到達時間(目安)
地域 最大津波高 (m) 第一波到達時間 (分)
呉市 約 3.0 約 30~50
広島市 約 2.5 約 40~60
福山市 約 2.0 約 50~70
尾道市 約 1.5 約 60~80

出典: 広島県 津波浸水想定について (注: 上記の値は代表的な地点の目安であり、詳細はお住まいの地域の浸水想定図をご確認ください)

参考マップ: 南海トラフ巨大地震の被害想定マップ(液状化/最大沈下量)産総研

関連動画: 広島でも想定される巨大地震(TSS)

【第2章のまとめ】 南海トラフ巨大地震は、発生確率が非常に高く、広島県にも甚大な被害(強い揺れ、津波、液状化など)をもたらす可能性があります。特に沿岸部にお住まいの方は、津波からの迅速な避難が重要です。

第3章 広島の地盤と地震の関係

3.1 地盤と揺れの増幅・液状化

地震が発生した際の揺れの大きさは、震源からの距離や地震の規模だけでなく、地盤の性質によっても大きく左右されます。一般的に、山地などの硬い岩盤では揺れは小さく、河川沿いの低地や沿岸部の埋立地などの軟らかい地盤(沖積層など)では、揺れが増幅される傾向があります。これを「地盤増幅」と呼びます。

また、このような軟弱な地盤では、強い揺れによって地盤が液体のような状態になる「液状化現象」が発生しやすくなります。能登半島地震でも広範囲で液状化が発生し、建物やインフラに大きな被害をもたらしました。液状化が起こると、建物が沈下・傾斜したり、マンホールが浮き上がったり、水道管などのライフラインが寸断されたりする危険があります。

3.2 広島県の地盤の特徴

広島県は、中国山地を背後に控え、瀬戸内海に面しています。県北部の山間部は比較的硬い地盤(花崗岩など)が広く分布していますが、太田川などが形成した広島平野や、沿岸部の三角州・埋立地は、軟弱な沖積層や人工的な盛土で構成されている場所が多くなっています。

広島県の地盤の種類を示した地図の例
図5: 広島県における表層地盤の種類(例)

出典: 国土地盤情報センター KuniJiban (より詳細な情報が閲覧できます)

3.3 地震時のリスクが高い地域

地盤が軟弱な地域では、揺れが大きくなる(地盤増幅)だけでなく、前述した液状化のリスクも高まります。

特に、広島市中心部(特に中区、南区、西区の沿岸部・河川沿い)、呉市、福山市などの沿岸低地や、太田川などの主要河川流域では、これらのリスクが高いと考えられています。ご自身の住む地域の詳細な地盤情報や揺れやすさ、液状化リスクについては、広島県や各市町村が公表しているハザードマップで確認することが非常に重要です。

お住まいの地域のハザードマップは、各市町村のウェブサイトや窓口で入手できます。例として、広島市のハザードマップはこちらから確認できます(他の市町村も同様に検索してください)。

【第3章のまとめ】 広島県内でも、地域によって地盤の性質は大きく異なります。 特に沿岸部や河川沿いの軟弱地盤地域では、地震時に揺れが大きくなりやすく、液状化のリスクも高いため、より一層の注意と対策が必要です。必ずハザードマップで自宅周辺のリスクを確認しましょう。

第4章 地震に備える方法

地震による被害を最小限に抑えるためには、日頃からの備えが不可欠です。ここでは具体的な対策を紹介します。

4.1 正しい知識を身につける

4.2 家庭での備え(モノと計画)

4.3 建物の安全対策(耐震化)

参考: 広島県 建築物の耐震化促進 (補助制度等はこちらで確認)

4.4 地震発生時の行動

参考: 広島県 これで地震・津波に備える!~防災ガイドブック~

【第4章のまとめ】 地震への備えは、「知る(リスク・情報)」、「備える(モノ・計画・家)」、「適切に行動する(発災時)」ことが重要です。特に、ハザードマップの確認、家具固定、水・トイレの備蓄、耐震化の検討、津波からの迅速な避難は不可欠です。できることから一つずつ、着実に進めましょう。

第5章 地震の科学とその学び

5.1 地震予測の現状と限界

現在の科学技術では、地震が「いつ」「どこで」「どのくらいの規模で」発生するかを、ピンポイントで正確に予測することは困難です。しかし、過去の地震データ分析、活断層調査、GPSなどによる地殻変動の観測を通じて、長期的な発生確率の評価(南海トラフなど)や、特定の地域での地震活動の監視は行われています。

また、「宏観異常現象」(動物の異常行動など)が地震の前兆として語られることもありますが、科学的な根拠は確立されていません。 不安を煽る情報に惑わされず、気象庁や自治体など公的機関からの情報に基づき、冷静に対応することが大切です。

5.2 地震の研究・観測機関

日本における地震の研究や観測、情報発信は、主に以下の機関が連携して行っています。

5.3 地震について学べる場所・機会

地震や防災について、さらに理解を深めるための施設や機会があります。

参考: 防災情報 地震に備えて(福山市)

関連動画: 防災講演会「広島も大きな被害!南海トラフ地震を知ろう」(江波山気象館)

【第5章のまとめ】 地震の正確な予測は難しいものの、科学的な研究や観測は日々進歩しています。信頼できる情報源から最新の知識を得て、防災センターでの体験や地域の訓練に参加することが、いざという時の適切な行動につながります。

まとめ

この記事では、広島県における大規模地震のリスクと、その備えについて以下の5つの章で解説しました。

  1. 広島県の地震活動の特徴: 活断層、プレート沈み込み、南海トラフの影響など多様なリスクがあること。
  2. 南海トラフ巨大地震の影響: 発生確率が高く、県内でも強い揺れや津波、液状化が想定されること。
  3. 広島の地盤と地震の関係: 軟弱地盤地域では揺れが増幅しやすく、液状化リスクも高いこと。
  4. 地震に備える方法: 知識習得、家庭での備蓄・計画、建物の耐震化、発生時の行動指針。
  5. 地震科学とその学び: 予測の現状と限界、研究機関の役割、学習機会の活用。

これらの内容から、広島県も決して地震と無関係ではなく、いつ起こるかわからない大規模地震への備えが不可欠であることがご理解いただけたかと思います。能登半島地震の被害を見ても、決して他人事ではありません。日頃から、

といった対策を着実に進めることが、あなた自身と大切な人の命を守ることに繋がります。

地震は恐ろしい災害ですが、正しく理解し、備えることで、被害を減らすことができます。 また、地震や防災について学ぶことは、自然への理解を深め、地域や人とのつながりの大切さを再認識する機会にもなります。

この記事が、皆さんの防災意識を高め、具体的な行動を始めるきっかけとなれば幸いです。今日からできることを始めましょう。


参考情報・関連リンク